チャマのおまじない/1
8月28日の『おしどり夫婦の眠れぬ夜』を書いていて思い出した。そもそも身内のポートレイトを首にぶら下げておくと良い、とアドバイスしたのはチャマだ。チャマとは、従姉のこと。大学卒業後、大手メーカーに就職をした彼女は初めてと言っていいぐらい自分と境遇の違う多くの人たちと触れ合うことになった。お喋りが得意な彼女は、デスクに座りながらも同僚や上司にいろんな話を聞かせて楽しませていたに違いない。しかし一番彼らが楽しんだのは、一日の仕事を終えた退社後だったに違いない。レストランで友達に、家に帰って奥さんや家族に、映画館で彼氏に、「今日、チャマがさぁ〜」と彼女を目の前にしては決していえないあだ名をこっそり言う時だ。「チャマ」とはお爺ちゃま、お婆ちゃま、叔母ちゃま、などと言う時の「ちゃま」。通常は、祖母や祖父、叔母と言うけれど、極親しい上司や同僚に家族の話をする時は「ちゃま、ちゃま」呼びをしていたらしい。恐らくいくら「ちゃま、ちゃま」呼びをしても、誰も変わってると指摘しない境遇だっただろうけれど、会社は違ったようだ。彼女のデスクの周りでは、「ちゃま、ちゃま」と聞く度に、吹き出したくなる思いが蔓延したに違いない。なんというか、多分、ドレスを着て、おリボンをつけて、ソックスを履いたプードルを見て、動物なのに貴重品みたいに扱わなくても良いんじゃないの、って思う人の感覚に似ているのかもしれない、と想像してみた。ともあれ、その、チャマが久し振りに私の母に会った時の事。母の驚く程やせた姿を見て言った。「どうしたの?そんなに痩せて。いいわね、一体どんなダイエットをしたの?」。どんな事があっても豪快な食欲だけは失せることがない母のことだから、そのダイエットはそうとう効果的なんだろうと、最近体系が気になり出したチャマは興味深々になった。母はケタケタと笑い出した。そして「あなたのお父様ですよ」と薮から棒に言った。要するに母の兄が原因だという。飛行機に乗り遅れる事以外にもうひとつ、彼女が恐れているのは兄だから、普段は仲が良いのに、たまに彼に叱られると、世の終わりがやってきたかのようにションポリしてしまうのだ。「この間も電話で喋っていたら、いきなり怒るんだもの」と母。電話を切った後の二週間、落ち込んで物が喉を通らなかったらしい。でも心配無用。痩せてすっかり機嫌が良くなった母の食欲は、またちゃんと戻ったらしい。「こんなんじゃあ、また太っちゃうわねって、友達に話したら、定期的に彼に電話したら良いわ、って言うのよ」と言って笑ってる母に、チャマは言った。「叔母ちゃま、パパの写真をロケットに入れたら良いじゃない?」と。首からぶら下げて、レストラン行ったり、沢山食べたくなったりしたら、パッとロケットを見る。兄の顔を見て、恐ろしさあまりに、きっと食欲は瞬く間に消えるに違いない。母にだけ効くスーパー・ダイエット法だ。(by Anne)

チャマはお料理も得意。私の妹のお誕生日にリクエストを聞くと、「ショートケーキが食べたーい。お婆ちゃまが作ってくれてたみたいなやつ」と言ったそうな。妹もチャマだ。そういう私も、実は隠れチャマ。
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