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2007年10月24日 (水)

魚の味/その2

つづき。ケープ・コッドのビッグ・ハウスで、ディナーにチェコ人叔父さんがムツを作ってくれた時の事だ。ヴィッキーとは、私の父の弟の妻で、要するに血の繋がりはない叔母。カナダ人でスラリと背が高く、お転婆だけど相当なお嬢さん育ちだったと思う。3年振りに会って、髪の毛の白髪がやや目立つようになったが、お品の良いお転婆加減は未だ衰えていなかった。ディナー・タイムは必ずみんな揃って食卓につく。大勢で囲むテーブルはとても賑やかになる。彼女の横に座ると滑舌は良いけど目が回る程早口な英語で話しかけられ、話の内容が分かると楽しいけれど、半分しか理解できないと、なんともはっきりしない笑みを浮かべるハメになり、主人に笑われたこともあった。食事当番は日替わりで、作りたい人がつくることになっていたが、大概チェコ人おじさんだった。その晩も彼が担当。しかし魚が上手く焼けるか、温かいうちにサーブできるか、冷めてしまわないか、などを必要以上に心配して、ナーバスだ。第1回目にオーブンで蒸し焼きにしたムツが配られると、チェコ人おじさんは早く食べろと私たちを急かす。ヴィッキーは、きっと芸達者なのだろう。ゆったりとした手つきでナイフとフォークを動かし、ムツを口に入れるが、ものすごい早口でムツの感想を述べている。一体どうやったらそんな器用な動きが出来るのだろう。しかも、食べ物が口に入っているというのに上品に、なんて。「うーん、とても美味しいわ!去年ムツを作ってくれた時よりも腕をあげたんじゃない?」。私もヴィッキーに頷いた。中までしっかり火が通っていて美味しい。しかしチェコ人おじさんは、第2回目のムツの準備で大慌て。聞いてもいない。3分数えて、オーブンからムツを取り出した。今度はもっと上手くいったに違いないと言いながら、みんなに配り、また早く食べろと急かした。しかし今度は生焼けだった。ところが隣でヴィッキーが「うーん、最高だわ!とっても美味しい!さっきのよりももっと上手く焼けたわね」と言った。嘘でしょ?私は心の中で驚いた。ああ、そうだ。これが上流階級の人のマナーなんだわ。酸っぱいラタトィユを食べたボッちゃんみたいに。そうと分かっても、私はおかわりはしなかった。
人に出された料理で、不味く仕上がってしまったものは、最高の味と賞する。こんなマナーがあるみたいなのよ、と母にヴィッキーの話をした。すると母は「あら、そうでもないみたいよ」と私の悟りの価値を下げ、「少なくとも、魚の味に関しては」と付け加えた。日本人はお刺身も焼き魚も好きだけど、生なら生、焼くならしっかり焼く、が良い。そうでないと美味しいと思えない。でも、西洋では、特にフランス料理では魚をお肉みたいに生焼けにするのが上手な焼き方で、フランス人はそれが好きなのだと、母は言う。だからヴィッキーが2回目のムツを絶賛したのは、マナーではなく、案外本音だったのかもよ、と。なるほど。魚の味って難しい。(by Anne)

カナガシラ
ノルマンディーの市場で、赤い魚が目についたから買ってみた。カナガシラという魚なのだそう。母と私は塩焼きにしたい気持ちをグッと堪えて、フランス風にオーブンで蒸し焼きにしてみた。気持ち生焼けにして。淡白な味に最初は物足りなさを感じたが、次第にものすごく美味しいことに気付いた。東京に戻った今も、思い出しては唾を飲んでいる。シャブリ・プルミエ・クリュと共に。

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