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2007年12月17日 (月)

私は作家なんだから!/その2

(つづき)。と言うのも、作家とはどういうものかイメージがあるからだ。儘父を思い出せば良い。こちらは、身内をこう言うのもなんだが、正真正銘のちゃんとした作家。日々、特別な用事が無い限り、本を読んでいるか書いているか。最近はオブジェも作り始めたが、いずれにしても常に意識は創造の中にあるから、靴下が左右チグハグだったり、手帳をレストランに置き忘れたり、人のライターを自分のポケットに入れてしまうことは多々ある。その程度ならまだ笑って済ませるが、家のドアに鍵を差しっぱなしにしたことも数回あったものだから、怒った事もある。もっと困るのは、母が日本に仕事で行っている時だ。不思議なことに必ずと言っていい程、車にまつわるトラブルが発生するのだ。大概母が日本に行っていると、儘父は寂しくなるらしく、毎晩のように長いファックスを送って来ていた。作家だから、長い手紙を書くのは何て事無い作業とはいえ、ラブラブの彼らを冷めた目で見ていた私は、「まったく、よくやるよ」と呆れていた位だ。しかしある時、母が日本に滞在しているというのに、途中でピタリと彼からのファックスが来なくなった。変ね、と母は思ったそうだが、毎晩その長い手紙に長い返事を書かなきゃいけないのは作家でない彼女にとって、やはり労力を費やすことになる。いくら愛しているとはいえ、半ば義務になりつつあるのを思い出して、そのまま放っておくことにした。翌日も彼からファックスは来なかった。その翌日も来なかった。とうとう母が東京を出発する日まで、彼からのファックスは来なかった。もしや倒れたのではあるまいな。母はようやく帰りの飛行機の中で心配し始めた。パリの家に着いて、ドアを開けた。いつもなら首を長くして待っている儘父は、鍵を開ける音が聞こえた瞬間にすでにドアの前まで迎えに来る。しかしドアを開けても誰もいない。シーンとしている。母は本格的に心配し始めた。大きな声で彼の名前を呼んだ。何度も呼びながら居間に入った。すると居間の奥の椅子に儘父が、弱々しく腰掛けていた。「どうしたの?」と聞くと、蚊の鳴くような声で「ごめんね」と言う。何事かと思い、恐る恐る尋ねると、母の車を使って出かけて戻ってきたものの、一体どこに車を停めたのかがどうしても思い出せないと言うのだ。パリは大概路上駐車なので、毎回停める場所が変わるとはいえ、どうしても思い出せないなんてことは普通ありえない。しかし彼はいくら考えても思い出せなかった。もうあの車を見つけることはできない、大変なことをしてしまった、と彼は項垂れていたのだった。恐らく、物語か思想に思考回路が向いてしまって、無意識に車を停めてしまったのだろう。私の中で作家とは、日常的なことにボーッとしているものなのだ、というイメージが、彼を見ていて出来てしまったわけだ。
だから、「私は作家なんだから!」と主人に言った。だから、ボーッとしていて当然なのよ、だから、軽井沢の業者さんにいつ来るか時間を聞くのを忘れても良いのよ、と。私の中ではとても筋の通ったカッコいい言い訳になって、誇らしかった。しかし、普通はこれを、逆切れと呼ぶだろう。(by Anne )

書斎
作家の書斎。ノルマンディーにて。
ところでその車は、結局見つかった。どうしても思い出せないという儘父の代わりに母が見つけることにした。彼が家に帰ってくるときの思考回路と行動を分析して、きっとここは右に、きっとここは左に曲がったに違いない、と辿っていったそうだ。すると案の定、車はあった。夫婦とは凄い。


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