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2008年1月23日 (水)

映画の外で、シュールな事件

今朝のニュースで、アン・リー監督の『ブロークバック・マウンテン』の主演男優、ヒース・レジャーが亡くなったと聞いて驚いた。まだ28歳。この作品で素晴らしい演技を見せ、アカデミー男優賞に輝いた多望な俳優だったのに。本当に残念だ。昨日、無償に同監督の新作『ラスト・コーション』が観たくなって、レ・アールの映画館に飛び込んだ矢先のニュースだったから、なんだか不思議な気持ちでもいる。とにかく、猛烈に観たくなって、2月2日にシャンテ・シネやBunkamuraル・シネマ他で公開されるのを待ちきれず、パリで観てしまえー!と。上映時間と私の時計を照らし合わせたら、たった今、始まったところだったから、走って館内に入った。ところが本来ならまだ予告編を流しているころなのに、もう真っ暗で、スクリーンは大きくトニー・レオンのアップ。私の時計が少し遅れていたんだ、と少しがっかりした。
トニー・レオンは、寝室らしき場所で佇んでいる。奥から女性が現れて、どうしたの?と聞く。トニー・レオンは、麻雀の続きをしていなさい、と彼女に言う。
私は全くストーリーが読めなくて、もっと早くに来ればよかったと時計を恨んだのも束の間、まあ、観ているうちに分かるでしょ、と足を組み替えて気長に待つ事にした。すると、エンディング・ロールが流れ出した。狐につままれた気分だった。なんだなんだ。監視の人が居なかったからだろう。一つ前の回にうっかり入ってしまったのだった。照明がついて、辺りが明るくなると、観客は立ち上がり出口へ向かっていった。しかし私の目の前に座っていた男性は、立ち上がったものの、去ろうとせず、自分のポケットをたたいたり、椅子の下を覗いたり、手提げ袋の中を覗いたりしている。どうやら何かを探しているようだ。「何かお探しですか?」と私は訊ねた。もの凄く困り果てた様子で、「携帯をなくしてしまってね」と言う。私も一緒になって辺りに落ちてないか探してみた。「差し支えなければ、そちらに電話してみましょうか?」。赤の他人に電話番号を尋ねては、ナンパだと思われまいか。などと、全く余計な心配が頭を過ったので、完全に快く提案したわけではなかったが、言ってすぐその後、私はバカな事を言った、と恥ずかしくなった。彼は「そうですね、最悪、そうしてもらおうかな」と返事をしたものの、ひと呼吸してから、彼もまたバカなことを言った、と気付いたようだった。「っていうか、それダメなんですよ。映画館でしょ。映画観る前に電源切ってますからね」。そりゃそうだ。電源は当然切ってあるのだった。電話したって鳴りっこない。だから手探りで探すしかない。「そもそも、この席に座って、ここで、映画が始まる前に切ったんだ。それは鮮明に覚えているんだ。映画を見終わるまで一度も席を立たなかったのに。本当に変だな」。そう言いながら、焦った様子でありとあらゆる場所を探し、挙げ句の果てには自分の手提げ袋をひっくりかえして中身を全部広げた。ファイルが一冊。アドレス帳が一冊。手袋。ティッシュ。ボールペン。それに地下鉄のチケットが数枚。極、普通の中身だ。しかしその中に突出して奇妙な物体があった。大きな虫眼鏡の懐中電灯だ。何か特別な仕事をする技術者しか持っていなさそうなもの。どこで買えるのか想像もつかないものだ。彼はその大きな虫眼鏡の懐中電灯を握り、シートとシートの間、シートの下、通路の脇、を最前列からチェックし始めた。まるでシャーロック・ホームズごっこをしている坊やのように。まるで、『ごっこ』をするためにこの不思議な懐中電灯を持って来たのかもしれない、とまで思われた。しばらくするとこちらに戻り、こう言った。「僕には全く分からない。なぜ携帯がないのか。あまりにシュールすぎる」。なんだか私まで混乱してきて、そうですね、としか返事のしようがなかった。彼は、諦めたのか、シャーロック・ホームズを一幕演じて満足したのか、「ともあれ、素敵な映画ですよ、楽しんでください」と私に言い残して去っていった。『ラスト・コーション』は彼が言う通り、素晴らしく素敵な映画だった。見終わった後、私は物語の余韻でボーッとして、そのまま自然とFnacへ向かい、サントラを自動的に買っていた程だ。あの彼も、もしかしたら映画の世界に頭が行って、ボーッとしていたのかもしれない。ボーッとして、本当は携帯を持っていなかったのに、以前に館内で電源を切った記憶と錯誤してしまったのかもしれないのだった。私の憶測はどうでも良いが、作品はボーッとしてしまうくらい素晴らしかったのだ。(by Anne)
ラスト・コーション
パリの『ぴあ』、『ロフィシエル』。0、35ユーロと、安い!左は買ったサントラCD。日本での公開ポスターとは違うかな?日本に戻ったら、もう一度観るつもり。

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