春うらら、うわの空/その1
4月らしいお天気に桜が映える今日このごろ、気分が浮かれて、うっかり変なことをしてしまっていませんか?
私は、さっき、うっかり「ごちそうさまでした」と言いそうになったのである。これが、ランチの後だったら、うっかり言いそうになるほうが常識人なのだが、シチュエーションが違えば、変な人と化してしまうだろう。撮影が終わり、私はメイクを落として私服に着替え、スタッフが集まっているテーブルに近寄った。アシスタントの子達はブツ撮りの準備に取りかかって大忙し。私は、準備待ちのスタイリストさんと編集の方とでお茶を飲みながらのんびり休んでいた。ワンちゃんの話で盛り上がりながら、私は薄ら胃のあたりに空腹感を感じて、「そうですよね、ワンちゃん、可愛いですよねー」と相槌を打ちながら、こっそり携帯で時間をチェックした。「お!まだ早い!」思わず口に出して言った。まだ午前11時だった。こんなに早く仕事が終わるのは、嬉しいやら気がひけるやらで、笑っていいのか頭を下げるべきなのか一瞬迷ったが、次の編集の方の言葉で、迷うのはどうでもいいと悟った。「そうなのよ、まだ早いのよー。ごめんなさいね、本当だったら一緒にランチでもしたいところなんですが…」。私は慌てて「いえいえ、大丈夫ですよ、家に帰ります」、と答えた。食いしん坊だということは、恥ずかしげもなく万人にバラしているけれども、ランチを狙っている意地汚い奴だとは、さすがに、狙っているわけではないだけに、思われたくない。私は立ち上がって、コートを羽織り、スタッフの方々に挨拶をして、エレベーターの前に立った。エレベーターが着くと、もう一度、挨拶をしようと、私はスタッフの方を振り返った。そして頭を下げ、大きな声で、「ごちそうさまでした!」と、言いそうになったのである。「お先に失礼します」とちゃんと言えて、エレベーターの中で肩をなで下ろした。
「ごちそうさまでした」をうっかり言いそうになるのは、仕事終わりだでけでない。夜遅く、タクシーで家に帰る時もだ。ウチの前にタクシーが近づくと、「あ、ここで停めて下さい。」と言って、メーターを見る。お財布から必要なお札を出して、運転手さんから釣り銭とレシートを受け取ると、ドアが開く。ドアが開くと、私は荷物を手に持ち、足を片方地面について、腰を浮かせ、「はい、どーも、」と言う。「はい、どーも、ごちそうさまでした」と、うっかり言わなくて本当に良かったと思うのは、タクシーがドアをバタンと閉めて走り去った後だ。今日もちゃんと「ありがとうござういました」と言って降りれたわ、とホッとするのであった。こんな私はやっぱり変なのかと思って、主人に聞いてみた。すると「あ、オレも『ごちそうさま』って言いそうになる」とのこと。どうやら私だけの奇異な言動ではないようだ。おまけに主人は食いしん坊ではない。「ごちそうさまでした」とうっかり言いそうになるのは、食に捕われている証でもなかったようだ。私は二重に安心した。つづく。(by Anne)

太い幹から直接顔を出し、咲いているソメイヨシノの花。愛らしい。
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