甥も、芋も/その2
(つづき)要するにそのお母様の言っている事が分からないのだ。電話に出ると、いつものようにお天気の話や、健康の話から始まり、自分の娘が盲腸の手術をした時の話になった。話によると、彼女は入院中の退屈しのぎにお医者様との「火遊び」を楽しんだそうだ。挙げ句のはてにプロポーズまでされたという。しかし、入院中はまるで白馬の王子様に見えたお医者様も、退院とともにノッペラボウのただの人となり、彼女の熱はすっかり冷めたそうなのだ。そのお医者様には気の毒な話だが、以来、彼女は「入院中の火遊びのススメ」を唱えているらしい。「けっこういいわよ、だって退院したらすっかり熱も冷めるんだもの、本気になんかなりゃしないから、リスクないでしょ」と人差し指を立てて話す彼女の姿が思い浮かぶ。そこまでの話は100%理解した。電話を通して、私達は2人でケタケタ笑った。次に、友人のお母様はこう付け加えた。「あとオイモね、アレがダメだったのよ」と。私はびっくりして、「え?そうなんですか、知らなかった!」と答え、彼女は「ええ、そうよ」と平然と相槌を打った。「へえ、どうしてかしら?繊維がいけないのかしら?」と質問する私に、今度は「繊維?」と不思議そうに聞いて来た。「ええ、お芋が盲腸に良くないんだったら、繊維のせいかしら、と思って」。私がそう言うと、電話の向こうはシーンとしていた。私は変な事を言ったかしらと、「え?」と思わず声を出した。電話の向こうからも「え?」と聞こえてくる。「え?」、「え?」、「え?」、…。しばらくしてお母様は気がついて下さったらしく、「ああ、オイよ、甥、お芋じゃなくて、ね」と私を理解させて、「私の甥もね、盲腸でね、入院したことがあったのよ」と、オイモアレダメではなくきちんと説明して下さった。私はそれを聞いて一人で可笑しくなって笑いが止まらなくなったのをよそに、お母様はなお入院話を続けた。「そうそう、私もね、胆石で手術したときはね、…」と。その話は何度も聞いたから、ちゃんと聞かないでもいいや、と密かに思った。それよりさっきの甥っ子さんの話で思い出し笑いをしないようにしなきゃだわ、などと考えていたら、お母様が「あとオイモね、アレがダメだったのよ」と、またおっしゃる。「えー!?胆石でも入院されたんですか?」と私は思わず大声を出した。電話の向こうから「え?」と聞こえてくる。「あら?私が胆石やったの、知ってるでしょ?お見舞いにも来てくれたじゃない?」とお母様。「え?それは知ってますけど、まさか甥っ子さんも、とは知りませんでした」と私。「え?」、「え?」、「え?」、…。しばらくして、「あら、いやあね、今度はお芋の話よ。なんだかお芋を食べた時にはね、特に背中が痛くなってね。胆石に良くなかったみたいなのよ」と、またしてもオイモアレダメではなくきちんと説明して下さった。
甥も、お芋。あ〜、ややこしや〜、ややこしや〜。
最近、少しなだぎ武のファンになった私はつぶやいた。(by Anne)
(注意:本当の話だけど、登場人物はフィクションです。)

碓氷峠を超えた向こうの交差点。深い濃霧に包まれて、信号が、赤なのか、黄色なのか、青なのか、分からない。あ〜、ややこしや〜、ややこしや〜!
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