マイコサクラ失踪事件/その2
(つづき)「ニニ、ちょっと待って!」。包丁を置き、火を止めて、エプロンで手を拭きながら母はニニの後を追った。「ここ、開けて、開けて!」ニニはドアをガリガリと掻いた。開いてやると、芝生の上をタッタッタッと駆けて、外の空気を匂ってみている。そして、くるりと母の方を向くと、「こっちかもしれないよ、ついてきて!」と言って、池の茂みの方へ向かった。母はニニに案内されるまま、しばらく探し回ったが、マイコサクラは見つからなかった。「ニニ、もうお家に入りましょ。きっとじきに戻ってくるわよ」。そう言う母に、ニニは納得がいかない様子をみせながらも家の中に戻った。母はまた台所に立った。ニニもまた台所の流し台に乗り、母がニンジンを切るのを見つめていた。けれど、心ここにあらず、といった風。しばらくしてニニは、母の顔をジッと見て、「ねぇ、かあさん、お家の中も探してみようよ。どこか押し入れの間に挟まれちゃって出て来れないのかもしれないよ」。そう言うと、流し台からピョンと下りた。「こっち、こっち!」。母はまたニニの後を着いて行った。追いつくとすばしっこく階段を上り、「こっち、こっち!」と母を案内する。「屋根裏部屋のミシン台の下かもしれないよ」。「アンヌの部屋の、ダンボールの間かもしれないよ」、「かあさん達のベットの中で寝てるかもしれないよ」…。ニニは次から次へと母を連れ回し、マイコサクラを探し出そうとした。けれど見つからない。さすがのニニもくたびれたらしく、しばらくしたら暖炉の前でぐっすり朝まで寝てしまった。
翌朝、母は朝食の準備をしながら、台所の窓から庭を見つめ、マイコサクラのことを思った。どうしちゃったのかしら?いつもならどんなに外に出かけていっても、朝までには帰ってくるのに…。誘拐されたのかしら…?だったら悲しいわ…。すると、朝露に濡れていっそう緑色に輝いている芝生の上を、2匹の猫がこっちに来るのが見えた。よく見ると、ニニだ。そしてニニの後ろをマイコサクラが歩いている。母は庭のドアへ向かうと、マイコサクラは何事も無かったように家の中に入り、ニニは「連れて帰ったよ」と言いたそうに小さく「ニャ」と鳴き、目配せした。
「結局ニニが連れて帰ってきてくれたのよ!」。電話で一部始終を話した母は少し興奮して笑っていた。私は、母がニニばかり可愛がってるとマイコサクラが思いこんでいたら…、と想像した。だから「ふてくされちゃったんじゃないの?」と聞いてみた。母は、「そうなのよ、そうだったみたいなのよ。人間みたいで可笑しいわ」とずっと笑っていた。
前の夜暖炉の前で寝てしまったニニは、明け方になってふと、またマイコサクラのことが気になり、目を覚ました。まだ薄暗い部屋の中に細い朝の光が差し込んでいる。ニニは急に立ち上がった。「裏庭のドアが半開きになってるんだ!」ニニはドアをすり抜け、急いで外に出てみた。早朝の涼しい風にあたると、はっきりと思い出した。「そうだ!あそこだ!あそこに違いない!」。前にマイコサクラが、こっそりと教えてくれた場所。「『ここに居るととっても落ち着くのよ』って言ってた場所!」。ニニは裏庭の隅っこにある、お墓めがけて走って行った。先代、アスチュのお墓だ。その墓石の脇のエニシダの茂みに、きっと、きっと、姉さんが居るに違いない!アスチュのお墓を跨ぐ時に、少し会釈をして、ニニはエニシダをかき分けた。「姉さん?」ニニがそっと声をかけると、「ニニ?1人なの?」と小さな声が帰ってきた。やっぱりここだったんだ!ニニは嬉しくて嬉しくて、「姉さん、帰ろうよ!帰ろうよ!母さんも心配してたよ」とはしゃいだ。でもマイコサクラは「いやよ!」とそっぽを向いている。「だって、母さんたら、昨日私たちのお手洗いを掃除しなかったのよ。汚いのは嫌!だから仕方なく、暖炉のところで…。灰がいっぱい積もってたから、良いと思って…。なのに、なのに…。」マイコサクラはしくしく泣き始めた。それでも続けた。「なのに、なのに、あんな剣幕で怒るんですもの!酷いじゃない!」。ニニはしばらく姉さんのそばで落ち着くのを待った。どのくらい時間が経ったのだろう…。「姉さん、もう帰ろう。母さんが心配してるよ…。ね?ね?」マイコサクラは、ゆっくりと涙を拭って顔を上げ、そして小さく言った。「そうね」。(by Anne)

先代アスチュの写真が、不思議な事に一枚しか出てこない。沢山撮ったのに、どこへ行ったのだろう?マイコサクラとの血の繋がりはないが、アスチュも人間嫌い。ちょっと撫でても、ちょっと抱っこしても、嫌がることの多かったこの先代は、しかしながらゆったりお姫様ではなかった。一匹狼(?)で野性的。ハンターとしての腕前はバツグン。女々しいところは一つもない、ジャンヌ・ダルクのようだった。ちなみにアスチュも私もアメリカンショートヘアもどき。
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